競走馬の馬体を評価する個人的指標のまとめ

はじめに


 「馬体は素人にはわからない」
 良く言われる言葉ですが、美しい絵を見て美しいと感じるように馬体も美しいものは美しいと感じ取ることができます。ただ、それは命ある生身の動物。言葉で中々伝えるのは難しいのですが、先人達が語り継いできた経験則に基づく法則のようなものがあり、たとえ素人だろうともそれを引き出すことで確率論として語ることは出来ると信じています。
以前から纏めたりはしていたのですが、POGのドラフトなども終り来年のダービーへ向け盛り上がっているようですので改めて。


より個性が求められるポストサンデー時代


 サンデーサイレンスがこの世を去りしばらく経ちますが、それによって種牡馬の個性・特徴がより評価されるようになったと思います。フジキセキ産駒の重さ、マンハッタンカフェ産駒の緩さ、グラスワンダー産駒の硬さ、非サンデー系の輸入種牡馬、そしてディープインパクト。彼らの特徴を受け継ぎ、配合の妙で産まれ育てられ「個性」を活かされた仔が次世代へと血を繋いで行くのです。(たぶん)


完璧な馬はいない。全体からの減点法で


 自分が写真を見てきた中で「これは…」と思ったのはトウカイテイオーとネオユニヴァースです。

 力強くもしなやかな首差し。そこから腰へ至る背のライン。トモ肢の容量・位置角度のバランスetc…もう全体のバランスが抜群なんですよこの二頭は。ネオユニヴァースの写真は募集時で前駆など幼さ残る体付きですが、成馬になった時を想像していただきましょう。しかしながらこんな馬は滅多にいません(笑)いないから自分が理想とする形から減点法で目の前の馬を見ていきます。じゃあ何を以って減点とするのか、加点(評価)とするのか、それを次項から見てみます。


競走馬のスピード源である後肢(トモ)


 これはイギリスのHyperionという馬なのですがまあそれは置いといて。
スピードの絶対値を測る上で欠かせないのがトモの質ではないでしょうか。胸前と腰角と臀端の3カ所に赤い線を引いてみました。この内右の2本、つまり腰角と臀端の幅でトモの容量を測ります。例えば「トモの容量が少ない」という馬は、それが黄色い線で示しているように腰角と臀端の幅が狭いようですとスピードの絶対値が低いのではないかという推測が立ちます。次に見るのはトモの角度です。青い線で引いているのが股からひばら、腰角に向けて引いた線なのですが、この角度が緑の線だと窮屈になり淡白な走り(良い脚が続かない)になってしまいます。逆に、水色の線を引いた角度ではどうでしょうか。トモが前にせり出しており、一見容量が豊富に見えるのですが、その分背中が短く、体が伸びず走りが窮屈になってしまいます。


 トモで見るべき箇所は他にもあって、重要視すべきは飛節です。ただ、飛節にはついては詳しく解説されてますサイトがありますのでそちらで(笑)
(STEP15 飛節とその周辺部位を見る)
補足すると、飛節は上の大腿筋、半腱半膜様筋というお尻の後ろ側についている筋肉に作用してきて、この2つの筋肉がある程度発達してこないとスピードの伸びが出てきません。飛節がショボく骨量や力強さが無いとここの筋肉も発達して来ないので、骨量があって力強い飛節かどうかを重視すべきだと思います。直飛か曲飛かというのは、まぁどちらも極端に出ると走る上での欠点となってしまうのですが、どちらかというと好みのレベルだと思います。


競走馬のスピードを支える前肢


 ここまでスピードの源である後肢を見てきましたが、スピードの絶対値が高い馬というのは脚元への負担がハンパありません。スピードが高い分、脚もそれに比例して頑丈で太ければ良いのですが、サラブレッドの進化・馬体構造上そうはいかず。。ですから、脚元が負担に耐えうる造りなのかどうなのか、それをしっかりチェックする必要があると思います。

 で、前肢なんですが、つい最近記事として纏めて書いているものがあるので、そちらのリンクを張っておきます(手抜き)
(美脚チェック)
あとはこちらの記事も参考になりますね(手抜き その2)
(STEP10 前肢・膝つき(支軸)を見る)

 ロジユニヴァースなんか膝の大きさ・位置が違う馬として有名ですが、ダービー以降、中々競馬場で走ってる姿を見られない原因はそこだと思います。基本的に脚元に何らかの欠陥を抱えている馬は強い調教が出来ずそもそも競馬場に出てくることが無いことが多いのですが、ロジユニヴァースの場合走る能力は高かっただけにダービーを勝つ所まで行けた。ただ、その疲労は溜まる一方でそれ以降競馬場で走ることが出来ない。人間も長い事生活してると体のどこかに歪みが生じ、慢性的な肩こりに悩まされたりしますが、体に歪みがあると逆の筋肉が引っ張りそれを助けようとするので、結果的に歪んでる箇所だけでなく他の箇所にも疲れが生じてしまうんですよね。競走馬にもそれと同じことが言えるのではないでしょうか。


肩の角度から距離適性を測る



 これはどちらも父がデインヒルの馬なのですが、左がDylanThomasで右がRedoute’sChoice。DylanThomasが2000M以上の中長距離に適性があったのに対し、Redoute’sChoiceは1600M以下の短距離で結果を残しました。父が同じなのに距離適性が異なったのは、見て分かる様に肩の角度によるフォロー、ストライドの広さにあったのではないでしょう。DylanThomasのように肩(肩甲骨)の角度が馬体に対し寝ているようだと前肢が開く(上がる)角度が広くなり、肩から下の稼働域が広く取れます。つまり、完歩のリズムが緩やかになり、ストライドが大きくなるのです。肩甲骨の立った馬はその逆で、稼働域が狭く回転(ピッチ)を効かせた走法となるのが想像つくでしょうか。

 ただ、競走馬の距離適性を決めるのは肩の角度だけではありません。それに準じた繋ぎの角度・長さも求められてきます。長距離を走る上で大切なスタミナ(心肺能力)、それをロスすること無く折り合って走れる気性などなど、距離適性を決めるのは様々。しかし、立ち写真から気性や内面的心拍能力を図るのは中々難しい作業ですので、肩の角度から馬の走りを推測するという試みは距離適性の判断基準として有効な手段だと思います。


長躯短背は名馬の条件?背と胴


「長躯短背」という言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。このような馬のことですね。
 ヴィクトワールピサです(競馬ブックPHOTOパドック-有馬記念-より)
 しかしながら、長躯短背ということにとらわれ過ぎて背が短ければ良いんでしょ?というのは間違いです。全体として見た中で、胴の長さがあり、き甲が発達していて胸に深さがあり、その中で腰がしっかりしていて背が短くないと、単純に「背が短い」というだけでは、先にトモの項で説明したように体を上手く伸縮できず走りが窮屈になってしまいます。
 では、背が長いとどうなるのでしょうか。長さがある吊り橋を想像していただくと分かるでしょう、短い吊り橋なら支点にブレが生じずらいので、吊り橋を最初から最後までダッシュしてもフラつくことは無いのですが、長い吊り橋をダッシュすると、真ん中当たりで相当なフラつきが生じてしまうはずです。もちろん馬の背は吊り橋のように両サイドからだけ支えてるのでは無く、背にある筋肉でも支えているのですが、背が長いとその筋肉に相当な負担が掛り疲労してしまいます。これが長い背がトモの推進力を減殺してしまう要因ですね。そして大切なのが腹の長さ、胴のバランスです。長躯短背というのは背が短く、胴に長さがあることを言います。背も胴も短いような状態は、肢だけが長いというような状態で、踏み込み込んだ時に後肢が前肢の球節にぶつかってしまい、踏み込みが浅くなってしまいます。
 ちなみに、短距離馬は胴が詰まってる馬が良いとされますが、それは短距離走で求められるスピードが、馬体構造上、肢が短く肩も立ち気味でピッチの速いダッシュ力を生みだせる体型の方が向くという話であって、短距離馬=胴詰りが良いという単純な話では無いと思います。


チーターの走りを可能にする腰


 横写真では分かり辛いのですが、き甲の終りから背の始まりは狭く、腰に向かって広くなっていき、腰の部分で最も広くなるのが腰の正常な形です。本来は後望で確認するのが良いのですが、上のヴィクトワールピサの写真を立体的に見て、腰角の部分がこちら側にせり出して見えるような、そんな感じを見てとれるでしょうか。腰に幅が無い馬は、後望した時、腰を頂点として山の形をしたように見えますが、そんな軟弱な腰ではトモの推進力が有効に前躯へと伝わりません。
 余談ですが、ディープインパクトの走りは『チーターのような走り』と武豊騎手に評されていました。

その走るフォームが研究された結果、他馬とのあらゆる違いが見出されたわけだが、その中でも最も大きな違いは、後肢の踏み込みの深さにあった。3冠を達成した菊花賞のゴール前100Mにおける、ディープインパクトの走るフォームをVTRで撮影して検証してみると、後肢を前方に振り出すとき、骨盤が大きく前方に沈み込んでいたのだ。よりチーターのような肉食動物に近い、体全体を使った効率の良い走りであったと言うことだ。肉食動物系の走るフォームの最もたる例は、角居勝彦厩舎で調教されたヴィクトワールピサではないだろうか。この馬のフォームは、500kgを超える大型馬ということを感じさせないほど、軽くて美しくて、そして力強い。少し大袈裟ではあるが、そのトモの踏み込みは草食動物のそれとは思えない。頭が小さく、手脚が長いとい生来の体型もあるが、全く無駄のないフォーム、いやい、全身を使った最も効率的にスピードが出せるフォームを角居厩舎で体得したからこそ、あれだけの次元の違う瞬発力を発揮できるのだ。その後肢の踏み込みの深さと、前肢の伸びには驚嘆せざるを得ない。皐月賞までに見せた末脚は異次元のものであった。

(Keiba Culture Magazine ROUNDERS Vol.1 -調教の全て P153- より)





おわりに


 最初にも言いましたが、競走馬は命を持った生身の動物です。人間がそうであるように特徴や個性は一頭一頭違います。馬体が良くても競馬が嫌いだったり、基本、楽をしたがる動物ですので、キャンターの動きは抜群でもギャロップだと体が縮こまってしまう…なんでだろう。。という話は良くあることです。しかし美しいサラブレッドをじっくり吟味することは、美しい芸術作品を観て愉しむのと同じように、競馬の愉しみの一つであると確信しています。
 簡単ではありましたが、このように纏めることで馬体に興味を持って頂き、競馬の愉しみが増えるようなら幸いです。また、色々勘違いしてる箇所もあると思うので、誤認を指摘していただけたらこれまた幸いです。




-参考書籍・リンク-
競馬・馬の見方がわかる本(伊藤友康著)
サラブレッドの研究(野村晋一著)
Keiba Culture Magazine 「ROUNDERS Vol.1」(ROUNDERS編集部)
My-Aiba.com 馬の見方

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競走馬の馬体を評価する個人的指標のまとめ」への7件のフィードバック

  1. めっちゃタメになるエントリー、ありがとうございます!

    トウカイテイオーの絶賛部分でウルウルしそう(笑)
    てのは置いといて、
    ロジユニの走りは、ボク的にキレイだと思うんですけど
    馬体的に欠陥があるんですね

    ボクが走法からアプローチしているのはご存知の通りですが、
    昨年から馬体を見るようになって
    「馬体は美しい走法を生む土台」
    という感覚を持って、少しでも馬体を見れるようになるよう取り組んできました

    で、ココで疑問点が……
    「馬体が不完全でもロジユニのあの走りが可能になるのはなんだろう?」
    てところです

    ま、フォームは良くてもトップスピードがないとかいう欠点はありますけど
    形的にキメられるのはその馬固有のセンスによるものなのでしょうか?
    それともスピードを受け止める負担を、表情に出さない頑張り屋さん?

    馬体に欠陥があるから長期休養を余儀なくされているのはわかりました
    でも、馬体に欠陥があってもダービーまでは頑張れちゃったという結果

    うーん。。。
    若駒戦を主戦場にしている者として、取捨の線引きが。。。
    さじ加減が難しいっすね(笑)

    • りゅうさん

      >で、ココで疑問点が……
      >「馬体が不完全でもロジユニのあの走りが可能になるのはなんだろう?」
      >てところです
      >ま、フォームは良くてもトップスピードがないとかいう欠点はありますけど
      >形的にキメられるのはその馬固有のセンスによるものなのでしょうか?
      >それともスピードを受け止める負担を、表情に出さない頑張り屋さん?

      ロジユニに関しては、アグネスタキオン産駒で前肢歪んでる仔のような感じだと思います。
      体の一部に欠陥を抱えていても、その他速く走る為の筋肉・骨格・それらを動かす柔らかさは十分にあるし、
      良い厩舎に入ってより速く走るフォームを見に付けたのなら(もちろん、先天的にフォームが良い場合もありますが)
      ある程度の所までは走れると思うんですよ。

      まぁ、ダービー勝てたのは馬場の恩恵だとか、メンバーレベルが低かったとか色々ありますし、
      ダービーまでなら、若駒戦の重賞って将来500万も勝ちあがれないような馬も
      多く出走してくる訳ですし(どんなレベルであれ、新馬戦さえ勝てば重賞でれますからね)、
      「なんで欠陥抱えた馬がダービーを…」ということは、そこまで深く追求しなくても良いのかなぁと。
      ほら、毎週ボヤいてる人がいるじゃないですか!「やっぱサンデーだよなぁ~。わっかんないもんなぁ~。」ってw

      あれだけ長いこと馬をみてるオサーンですら分からないんですから、素人に分かるはずが無いんですよ(笑)
      個人的には、それが競馬に多くの人がお金と時間と夢をささげる理由なんじゃないかなと思います。

  2. なるほどー!
    消化しました^^
    丁寧な解説、ありがとうございました♪

    わっかんないよなぁ~
    って、すでにレギュラーですね(笑)

    • りゅうさん

      たぶん忙しいんでしょうが、
      競馬場の達人もそうですし、単純に競馬が好きなんだと思いますw
      面白い人ですよねw

  3. 馬体はよく解りませんが勉強になります
    参考にしたいと思います^^

    ディープインパクトなんかは小さい馬のせいかイマイチよく見えませんでしたが物凄く走りましたよね ブエナビスタも同じですかね~

    新聞とかだとディープ凄い馬体とか載ってましたけど素人の私には小柄な馬程度にしか見えませんでした

    しかしレースになると圧倒的な強さなんですよねー

    中京2歳Sの時にダイワスカーレットとアドマイヤオーラを生パドックでみたのですがこの時は「凄い」となぜか感じました

    阪神JFのウオッカのフォトパドックも同じです

    • spiritさん

      ありがとうございます。
      ディープやブエナのような馬は動かしてみないと分かりません(笑)
      動画や実際に見る機会が無いと判別付かないので難しいです^^;

  4. ピンバック: 競走馬の馬体を評価する個人的指標のまとめ 背中篇 | ローランの歌

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